ニュースの要点
厚労省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課は、2021年度「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業」の報告書を公表した。
事業の主な結果
- 新型コロナウイルス感染症拡大により、昨年度に引き続き、製薬企業の MR 等に対する訪問制限を行っている医療機関では、製薬企業の MR 等から、オンラインによる個別面談などの販売情報提供活動が積極的に行われた。医療機関側、製薬企業側のいずれもオンラインによる個別面談などの販売情報提供活動に慣れてきたところもあり、例えば、医療機関によっては必ず説明資料を事前に製薬企業から送付してもらうことにしている、製薬企業によっては担当 MR だけではなく上席者や学術担当者も同席して複数体制で対応することにしている、といったように適切な販売情報提供活動が行われるよう、運用面の工夫もみられた。
- 製薬企業が医療機関への情報提供に必要以上に慎重になっており、医療機関から質問をしてもその場で回答を得られず、後日書面での回答を受け取るような形式での製薬企業の対応が増えており、タイムリーに必要な情報を得ることが難しくなっているという意見が今年度の事例検討会でも挙げられ、緊急に情報が必要な時の情報提供のあり方についても検討が必要と思われる。また、医療現場で製薬企業が販売情報提供活動ガイドラインの趣旨・内容を正しく理解し、自社の医療用医薬品が医療現場で適切に使用されるよう、エビデンスに基づき、有効性と安全性をバランスよく情報提供していくことが必要である。
- 対面・オンラインなどの形式を問わず、依然として、「エビデンスのない説明を行った」、「有効性のみを強調した(安全性を軽視した情報提供活動も含む)」といった不適切な販売情報提供活動事例が多くみられた。また、今年度事業では「他社製品の誹謗・中傷を行った」事案が散見された。特に競合が激しい医薬品について、同様の不適切事例が複数の医療機関から報告されており、MR 個人の素養による事案ばかりでなく、営業組織による意図的な取組を疑う事案もみられたのが特徴的であった。なお、客観的な事実をもとに同効薬について比較表を作成し医療機関に提供すること自体について問題はないが、他社製品の誹謗を行うことや直接的に比較したエビデンスのないまま自社製品の優位性を言及することは不適切である。
- オンラインによるセミナーや情報サイトを介した販売情報提供活動が活発化している。クローズドな場での販売情報提供活動に加え、こうしたオンライン上においても不適切事例がないか、引き続き注視する必要がある。
- 本事業の一般報告窓口に医療関係者だけではなく製薬企業からの電話相談もみられるようになってきた。医療従事者からは不適切な販売情報提供活動に関する疑義報告以外に、「面談件数のノルマのためにメールや電話で面談機会を設けてほしいとしつこく要請があり、業務の支障になっている」「自院の患者など細かい情報収集を MR が行い、競合他院に提供している」など、本事業の範囲外となる製薬企業への苦情等が寄せられている。これらについては各企業に設置が義務付けられている販売情報提供活動監視部門への苦情を申し立てする内容と考える。また、製薬企業からは、販売情報提供活動の適切性の可否の判断等を求められるケース等がある。
モニター報告
事業ではモニタリング対象期間を令和3年度中の9か月間とした。9か月間で延べ28件の医薬品について疑義報告があり、このうち延べ20件の医薬品について違反が疑われ、事例検討会で対象事案とされた。この延べ20件の医薬品は、複数の項目について違反が疑われた事例も含まれるため、違反が疑われた項目は延べ26件となった。
違反が疑われた項目は、「エビデンスのない説明を行った」(10件、違反が疑われた延べ26項目の38.5%)が最も多く、次いで、「他社の製品を誹謗・中傷する表現を用いた」(5件、同19.2%)であった。また、違反が疑われた医薬品に関する情報の入手方法としては、「製薬企業担当者(オンライン・Web グループ面談(院内))」が8件(違反が疑われた延べ20医薬品の 40.0%)で最も多く、次いで「製薬企業担当者(オンライン・Web 個人面談)」(5件、同 25.0%)であった。違反が疑われた事例の多くは、製薬企業担当者を介した情報提供に関するものであった。
違反が疑われた医薬品の種類としては、図表 13 のように多岐にわたっているが、特に「腎性貧血治療薬」や「片頭痛予防薬」、「糖尿病薬」、「不眠症薬」、「抗ウイルス薬」が多く挙げられた。いずれも先発医薬品であった。