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《第9回》薬剤師の善意【埼玉県富士見・三芳薬剤師会 学術部理事 平野道夫】

著者

平野道夫

【プロフィール】
埼玉県富士見・三芳薬剤師会 学術部理事

城西大学薬学部セルフメディケーション学 非常勤講師
日経DIコラムニスト
認定実務実習指導薬剤師

近隣の薬学部学術サークル・有志の指導ボランティア担当

武道がライフワークで、中学からの空手修行で多くの大会出場
 2005年 世界空手道連盟 関東大会無差別級優勝
 2013年 世界空手道連盟 全日本選手権重量級3位

【著書】
「解消ポリファーマシー」(共著)

最近、善意についてちょっと考えさせられましたので、あらためて辞書で調べてみました。

【善意】(大辞林)
  1. よい心。善良な心。 
  2. 他人のためによかれと思う心。好意。「―でした行為」 
  3. 物事をすべてよいように受け取る心。いい意味。「―に解釈する」 
  4. 〔法〕 法律上の効果を生じうる一定の事実を知らないこと。私法上,一般に善意の行為は保護され,責任は軽減されることが多い。

4は法律上の使い方ですが、1~3はみなさんもよく理解されていらっしゃると思います。

薬剤師の善意とは心のこもった薬剤師業務の実施が前提であり、私なりに表現すると「患者さんや地域の方々に寄り添って、愛情をこめて個別最適化された、切れ目のない質の高い安心・安全な薬物療法を提供すること」となります。

臨床検査値や薬歴、そして現在の状況(食事・排泄・運動・認知・睡眠)などから最適な薬物療法を検討していくことが私達に託された業務というわけですが、その中で誰でもすぐに実行できるちょっとしたものを紹介させていただきます。当たり前過ぎるものばかりかもしれませんが、考えるヒントとして役立てていただけると幸いです。

錠剤をうまくヒートから取り出せない

在宅の現場で、何人もの患者さんからそのように言われたことがあります。
「錠剤が小さ過ぎでヒートから出しにくい。」
「球状のカプセルなので出すと転がってしまう。」
対策として、剤形の変更や一包化を提案したりしますが、さまざまな理由でそれが叶わない場合もあります。

そんな場合に2Lのペットボトルを使ってみました。

カッターで3つに切り分けます。

真ん中のものは使わず、写真のように注ぎ口部分を逆さまにします。
手を切ったりしないようにマスキングテープを貼りました。

そして、このように組み合わせて使います。
この上でヒートから錠剤を出せば、どこかに飛んでいったり、
転がっていったりはしなくなります。

費用もほとんどかからず簡単なのでおすすめです。

是非、患者さんの目の前で作ってさしあげてください。喜んでいただけると思います。

朝、起き上がっておくすりカレンダーまで歩くのがつらい

この方も在宅の患者さんでした。おくすりは一包化されていて、壁に貼ってあるおくすりカレンダーで管理されていました。

しかし、毎朝目が覚めても布団からなかなか起き上がることができず朝食の時間になってしまうと困っておられました。

そこで枕元に起床時服用のおくすりと、小さなペットボトルの水を置くことを提案させていただきました。使ったのは、お菓子の箱とその間仕切りです。制作時間も費用もほぼゼロですね。

マスキングテープで可愛らしく出来上がりました。
女性の患者さんだったのでとても嬉しそうでした。

とてもよく効く薬に出会い、副作用もないのに暗い表情の患者さん

長年、片頭痛で悩んでいる患者さんがいらっしゃいました。薬歴を見たら前回から5-HT1B/1D受容体作動型片頭痛治療剤のスマトリプタンの錠剤に変更されていました。服薬指導時に患者さんに効果等を確認させていただきました。

患者さんからは「やっと私に効く薬と出会えました。毎朝の頭痛から解放されました。」と喜びの声をいただきましたが心なしか表情があまりパッとしません。そこで詳しくお話を聞いてみたら、「服用すれば頭痛はしばらくするとウソのように治るので、とても有難いです。ただ、毎朝目が覚めると同時に猛烈な頭痛に襲われて、ベッドで上体を起こして枕元にある薬を服用することがとてもつらいのです。頑張ってくすりをのんで頭痛が治るのを待ってから起き上がるようにしていますが、それが毎日のことなのです。」とのことでした。

くすりは効くのに、つらい日々を送っていらっしゃるわけです。そこで、スマトリプタンの効果があることがわかっていますので、処方医に点鼻液を提案して変更してもらいました。

イミグラン点鼻液20(グラクソスミスクラインHPより)

後日、その患者さんの勤め先が近いこともあって、昼休みに満面の笑みで「ありがとうございます!目が覚めたら簡単に噴霧できて、すぐ効いて毎日が快適になりました。」とわざわざ報告にきていただけました。私達もとても嬉しかったので強く記憶に残っています。

バイタルサインの変化に気づく

「自覚症状はいつもと変わらないとのことですが、聴診器で胸の音を聴いてみたらいつもと違います。」と在宅患者(独居の高齢者)宅に訪問している薬剤師から電話がありました。

もちろん聴診器での正しい判断は私達薬剤師にはできませんが、毎回聴いているのでいつもと違うことに気づくこともあります。

そのときは、すぐに主治医に連絡して診察していただき、その場で肺炎のため入院となりました。数日遅れたら危険だったと医師から言われました。

「いつもの状態」を知っておくことは役に立つことが多いです。たとえば、服薬指導時においても「足のむくみはありますか?」と尋ねた患者さんからの答えが「ありません。」であってもそれで終わらず、その場で足のすねを手の指で5秒間押して凹ませて何秒で戻るかの確認を患者さんに実際にやってもらうことをおすすめします。
そして、「押したときの感覚や戻る秒数を覚えておいてください」とお伝えすることは今後の体調の変化に患者さんや私達が気づくために大切なことだと思います。もちろん、薬歴にもきちんと残すわけです。

善意のポリファーマシー

多剤併用による害が10年ほど前から指摘され、くすりを減らすことが課題とされていますが、不適切と判断される処方や有害な処方を減らすことが目的であって数を減らすことが目的そのものではありません。

また、その判断材料として用いられるクライテリア(STOPP/START Criteria・Beers Criteria)はとても重要な資料ですが、クライテリアにそのまま従うのではなく、あくまでEBM(エビデンスを踏まえ、患者の思いや背景を考慮した判断)主体に判断すべきだと思います。

腎機能の低下した高齢患者にTriple whammy(RAS阻害薬・利尿剤・NSAIDsの3剤併用)を防ぐというようなポリファーマシー対策が必須なことは誰の目にも当然ですが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬はどうでしょうか?
薬剤師の頭に浮かぶのは「ふらつき・翌朝への眠気の持ち越し・転倒骨折からの寝たきり・依存性」などではないでしょうか。もちろん全て注意すべき課題です。
したがって、高齢者に対して、「ベンゾジアゼピン系睡眠薬 1錠/1日1回 就寝前 30日分」という処方がされていたら、我々薬剤師は見た瞬間に「やめさせたい!」という善意が頭をよぎりませんか?

そこで、薬剤師は患者に対してライフスタイルの改善の指導に加えて、「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に変更」あるいは、「頓服処方に変更」等の提案を考慮することになりますし、医師の指示にしたがって離脱症状なく少しずつ減量していきたいとも考えるわけです。

しかし、上記のような薬剤師からの提案内容を処方医が知らないわけがありません。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬では効果がないので、敢えてベンゾジアゼピン系睡眠薬を処方していたり、患者さんの要望に応えて頓服ではなく30日分の処方をしていたりします。

多くの薬剤師さんは「睡眠導入薬なしで床についてみてください。どうしても眠れない時は、おくすりを服用してください。」と指導している場合もあると思います。
しかしこの指導が患者さんを苦しませてしまうことがあるということも覚えておいてください。睡眠障害の方にとって床につくことが恐怖で仕方がない場合があるのです。眠いのにいつまでも眠れないということが、とてもつらく恐怖となっていることもあるのです。そのような患者さんは、毎日、くすりを服用することで安心して床につき、眠ることができた喜びで朝をむかえ、1日を過ごしていらっしゃるのです。
薬剤師の「睡眠導入薬なしで床についてみてください。」という指導言は、「毎晩、恐怖を感じてください。」と同じ意味になってしまう場合もあるのです。

患者さんを幸せにするお手伝いをするのが薬剤師の仕事でもあります。服薬指導は患者さんに寄り添ったアドバイスでありたいです。

我々薬剤師はインプットした知識をアウトプットする際には最新の注意が必要となります。服薬指導が決まり文句のフレーズ*01の繰り返しになってしまうことは避けなければなりません。

繰り返しになりますが、エビデンスを踏まえ、患者の思いや背景を考慮した判断がとても重要となります。

医師による善意のポリファーマシーに対して、薬剤師による善意の押し付けを提案しないように心がける必要がありますね。

*01日経DIオンライン:平野道夫の「薬局手習指南所」
「金太郎飴」のような処方箋調剤
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/hirano/202309/581127.html

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