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《第6回》空手修行と漢方修行【まい薬局 平野道夫】

著者

平野道夫

【プロフィール】
まい薬局富士見店勤務
富士見・三芳薬剤師会学術部理事

城西大学薬学部セルフメディケーション学 非常勤講師
日経DIコラムニスト
認定実務実習指導薬剤師

近隣の薬学部学術サークル・有志の指導ボランティア担当

武道がライフワークで、中学からの空手修行で多くの大会出場
 2005年 世界空手道連盟 関東大会無差別級優勝
 2013年 世界空手道連盟 全日本選手権重量級3位

【著書】
「解消ポリファーマシー」(共著)

まい薬局富士見店ホームページ

まい薬局富士見店Twitter

空手の修行も漢方の勉強も要諦は深根固柢にあります。基礎を固めて根を深く強固なものにすることが重要です。

2020年の東京オリンピックで空手は初採用競技となりましたのでご覧になった方もいらっしゃると思います。仮想の敵に対して繰り出す技の美しさを競う型(形)と、実際に戦いポイントを競う組手の2種類で行われました。

その型というものは伝統的に継承された戦い方であり鍛錬法でもあります。

【著者の空手稽古の様子】

身体の合理的な使い方を学び、身につけることを目的としていますが、試合競技においては見た目の美しさが審判の判断基準となります。したがって、試合競技に勝つためには本来の体の使い方より美しさを重要視した稽古が必要になります。
また、実際に戦う組手競技においても手取り早く組手競技に勝つための稽古が優先され、型稽古が疎かになってしまう場合も多く見られます。

空手の型が美しくなることも、スピード感あふれる合理的な現在の組手はポイントを競う上ではかなりの進化を遂げたとも言えます。しかし、本来の型稽古、すなわち身体の使い方を疎かにしてしまうと本来の空手という武道から乖離してしまうという問題も出てきます。

同様のことが漢方薬の分野でも起こっています。

漢方にはとても多くの流派がありますし、現代の医療では中医学がとても重要視されています。
どの流派であっても原典である傷寒雑病論等の医学書を学ぶことは必須だと私は考えますが、傷寒雑病論等を読んだことすらないという薬剤師が非常に多い現実に驚いています。基本を学んでいないのに処方箋に基づいて漢方製剤を調剤しているわけです。このような状態で正しい処方解析や、正しい服薬指導ができるのか疑問です。

【薬局の本棚にある漢方の古典と参考書】

小柴胡湯と肝の病

医療用の小柴胡湯の添付文書の効能又は効果は以下のとおりです。

  1. 体力中等度で上腹部がはって苦しく、舌苔を生じ、口中不快、 食欲不振、時により微熱、悪心などのあるものの次の諸症:諸種の急性熱性病、肺炎、気管支炎、気管支喘息、感冒、リンパ腺炎、慢性胃腸障害、産後回復不全
  2. 慢性肝炎における肝機能障害の改善 

そして過去に小柴胡湯がASTやALTなどの肝機能の数値から慢性肝炎と診断された患者に漫然と長期に処方された結果として間質性肺炎が副作用として問題となったことがあり、現在では以下の禁忌の項が追加されています。

【禁忌(次の患者には投与しないこと)】 

  1. インターフェロン製剤を投与中の患者(「相互作用」の項参照)
  2. 肝硬変、肝癌の患者[間質性肺炎が起こり、死亡等の重篤な転帰に至ることがある。]
  3. 慢性肝炎における肝機能障害で血小板数が10万/mm3以下の患者[肝硬変が疑われる。]

本来、小柴胡湯が処方禁忌である体力のない、いわゆる虚証の患者に肝臓病だからということで処方されてしまったという病名漢方の弊害(誤治)だったとも言われているところです。

また、傷寒雑病論の中の金匱要略の序文に肝臓が悪い時には何をすべきかが以下のように記されています。

下手な医者は肝臓が悪い時に肝臓しか診ない。上手な医者は肝臓が悪く弱っている時にはまず脾を先に補い、脾を強くすることで腎の亢進状態を抑え、その結果心の働きが強くなる。心が強くなることで肺の亢進を抑えこみ肝のはたらきが強くなり病が治る。

諸説ありますが、これも漢方の基本で病気を治すとはひとつの臓器のみではなく身体全体を治療していくわけです。

抑肝散と肝(精神)の昂ぶり

現代漢方治療は飛躍的に発達しています。

抑肝散はいわゆる腺病質の小児のひきつけや夜泣きなどに用いる「こどもの薬」です。もちろん大人にも応用され、母と子供と一緒に服用するようにという「子母同服」も行われてきました。成育環境を勘案した治療の考え方が、この時代からあったわけです。 

現代では、抑肝散はアルツハイマー病のBPSD軽減で有名です。BBBを通過する有効成分が発見され、ご高齢の患者さんだけでなく、うつ病や更年期障害にも応用されています。これは明らかに進化だと言えます。

しかし、ただ闇雲にBPSD対策として症を無視して抑肝散を処方するのはいかがなものでしょうか。介護施設の方々が「また抑肝散が処方された。こんな薬まったく効かないのに。」とSNSに書かれていることをご存知でしょうか。

空手にせよ、漢方にせよ進化は大切ですが、伝統的な基本も振り返る必要があるように感じています。皆様はどうお考えでしょうか?

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