富澤 崇
【プロフィール】
株式会社ツールポックス代表取締役
北里大学客員准教授
1998年東京薬科大学卒、千葉大学博士課程修了(薬学博士)、 山梨大学医学部附属病院、クリニック、複数の薬局で勤務。
2001年から城西国際大学薬学部の教員として約20年勤務。大手チェーン薬局にて人事・教育・採用部門に従事。
2017年株式会社ツールポックスを設立。経営コンサルティング、キャリア支援、従業員研修などのサービスを展開。
【活動】
ファーマテック企業とのコラボレーション、大学での調査研究、セミナーの講師など、薬剤師業界のデジタル化に多方面から関与。Pharmacy DX Newsの編集部員としても活動中。
薬局DXをテーマに3回にわたって解説します。
DXって何って?「デジタルトランスフォーメーション」です。言葉は聞いたことあるけど、実はよくわかってない!という方のために、基本的なところを中心に解説していきます。
まず1回目は、「押さえておきたい薬局のデジタル化」ということで、最近話題の電子処方箋やオンライン服薬指導などのトピックスを抑えつつ、医療現場のICT化・デジタル化についてご紹介します。
1.オンライン服薬指導
コロナの影響もあって、規制緩和へ
2019年12月薬機法改正(2020年9月施行)により、対面での服薬指導等の例外として、一定の条件の下、オンライン服薬指導を行うことが可能になりました。その後、2020年4月10日、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての時限的・特例的な対応として、初診も含め、電話やオンラインによる診療・服薬指導等を行うことを可能とした。」といういわゆる「0410事務連絡」が発出され、それを受けて2022年3月31日医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行によって、オンライン服薬指導の条件が緩和されました。
主体的に進めるには既存患者さんから
患者さんは医師の診察(対面でもオンラインでも)を受けたのち、自身のスマートフォンのアプリを使って、オンライン服薬指導の予約を取り、画面越しに薬剤師から指導を受けてキャッシュレス決済し、後日薬が届くという流れです。
紙の処方箋を薬局に提出しなければならないのが面倒ですが、その点でいうと電子処方箋との相性はばっちりです。アプリは薬局で二次元コードを読み込む形でダウンロードするのが一般的だと思います。
アプリはオンライン服薬指導の機能だけではなく、処方箋送信、電子お薬手帳、服薬フォローアップなどの機能も備わっていることが多いため、既存患者さんにアプリをインストールしてもらい、オンライン服薬指導を利用してもらうという流れになると思います。
アプリは直感的に操作できる作りになっているので、高齢者でも十分使いこなせるでしょう。
2.服薬フォローアップ
技術料のためじゃない
2019年12月薬機法改正・薬剤師法改正(2020年9月施行)により、「調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。」と定められました。
これにより服用期間中のフォローアップが義務付けられたわけです。技術料の要件というより、薬剤師の職責としてやらなければならない仕事です。
「職場でフォローアップ業務がなかなか浸透しない」「どんな点に着目してフォローアップしたらいいのかわからない」という方のために、『服薬フォローアップ研究会』への参加がおすすめです。
電話じゃなくてアプリで
スマートフォンアプリのLINEは、国内で約9,000万人のユーザーがいるといわれています。日本国民をほぼカバーしているといっても過言ではありませんね。そのLINEと連携して機能する服薬フォローアップのシステムが使われるようになってきました。
フォローアップを電話でしているという薬剤師は多いと思いますが、患者さんが電話に出ない、電話の子機が奪い合いになる、パート勤務者は電話するタイミングが難しいなどの問題を感じていることと思います。
このLINE連携のシステムであれば、LINEのトークを使ってメッセージのやり取りができますので時間に縛られることはありません。画像や動画の送受信もできますので、副作用による皮膚病変の写真を患者さんから送ってもらったり、吸入デバイスの使い方の動画を送ったりすることもできます。
3.オンライン資格確認・電子処方箋
いつ来てもおかしくない電子処方箋
電子処方箋が2023年1月26日からスタートします。
オンライン服薬指導やリフィル処方箋と同様、電子処方箋も“患者起点”です。患者さんが希望することで発生します。ですから、このコラムを読んでいる最中にあなたの薬局に電子処方箋が持ち込まれることだってあるわけです。
オンライン資格確認と電子処方箋はセットで
下図は電子処方箋の流れです。この図以外にもわかりやすい説明が厚生労働省のHPにいくつも載っているので参考にしてみてください。HP内にある動画も大変わかりやすいです。
オンライン資格確認と電子処方箋はセットで運用されるものだとまずはご理解ください。今のところ従来の保険証でも電子処方箋は利用可能ですが、2024年秋をめどに紙の健康保険証は廃止され、マイナ保険証に一本化される予定です。オンライン資格確認は2023年4月から原則義務化となりました。
4.その他のICT化・デジタル化
スローガンは「Beyond The Pill」
「治療用アプリ」または「デジタル薬」という言葉を聞いたことがありますか?スマートフォンのアプリで病気を治療するというものです。
国内では、キュアアップ社が2020年に禁煙補助治療アプリ、2022年に高血圧治療アプリをリリースしました。国内外で製薬メーカーとITメーカーがコラボレーションし、Beyond The Pill(薬を超えろ)の合言葉で今後続々とリリースされる予定です。
内服薬ではなく、アプリで治療する時代です。国内では医薬品ではなく、医療機器の扱いなので薬局でお目にかかることは少ないと思います。医師の診察を受け、患者さんのスマホで二次元コードを読み取り、アプリをダウンロードして使い方の説明を受けるという流れなので、薬局が関わることがありません。
Beyond The PillならぬBeyond The Pharmacyです。これは薬局にとって脅威です。
IoTで健康管理
テクノロジーの進歩は我々の想像を超えてきます。以下の事例はすでに社会実装されています。
これまでは血圧計を出してきて測定して、血圧手帳に記録して、外来診察時に医師に見せるという健康管理行動を“わざわざ”やらなければなりませんでしたが、今後は健康管理行動を意識せず、日常生活の中で自然とそれが行われる時代になってくると予想できます。
- トイレで健康管理
便座のセンサーでバイタルチェック、尿や便の分析で糖尿病やがんの早期発見。 - 衣料型ウェアラブル
インナーとして着るだけで、心拍数や消費カロリー、姿勢をチェック。 - パーソナライズされた運動や食事の提案
DNA検査やアンケート結果を踏まえて、パーソナライズされたトレーニングメニューや献立が提案されたり、ミールキットがデリバリーされたり。
国民の健康意識がより高まり、予防への関心も強まると思います。病気になってから医療機関を頼るという考えから、病気にならないようにするという価値変化が生まれると薬局の役割も変わることになります。
すなわちテクノロジーの浸透が国民の意識を変え、行動を変え、さらには医療のビジネスモデルを変えてしまうかもしれません。
今回は、薬局のICT化・デジタル化の最近のトピックスをかいつまんでご紹介するとともに、テクノロジーの進展をのぞき見しました。次回は、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?薬局でどうDXさせるのか?についてお話したいと思います。