武政文彦
【プロフィール】
次世代薬局研究会代表理事
医薬品医療機器総合機構(PMDA)専門委員
1954年岩手県生まれ。東北大学薬学部卒業後、水野薬局(東京)に7年間勤務。
その後、郷里の岩手で薬剤師業務に従事。
東和薬局(岩手県花巻市東和町)開設者薬剤師
次世代の薬剤師が誇りをもって活躍できる土台づくりに貢献できればと思っている。
関心の強い領域は一般用医薬品とセルフメディケーション。
【著書】
共著『知っておきたいOTC医薬品』(東京化学同人)など。
アマゾンジャパンは、2024年内にもドラッグストア最大手のウエルシアホールディングスなどと連携し、処方薬のネット販売を始めるとのニュースが7月に駆け巡った。テレビ各局のニュースでも取り上げられたので、多くの国民がその動きを知ることになった。
仕組みは、患者がオンラインなどで医師の診察を受けた後、アマゾンのスマートフォンアプリなどで電子処方箋を登録して購入手続きをすると、登録薬局の薬剤師が調剤し、調剤済となった医薬品は薬局から自宅などへ配送するか患者自らが実店舗に取りに行く。アマゾン側は在庫を持たず、登録薬局の薬剤師が飲み方や使用上の注意などの服薬指導をオンラインで行うというもの。
すでに2022年9月5日には、アマゾンが処方薬ネット販売に参入するとのニュースが流れていたので、いよいよ始まるのかというのが率直な感想だ。
新型コロナ禍を経て、オンライン診療やオンライン服薬指導がにわかに脚光を浴びる中、アマゾン同様のサービスを展開する企業も存在する。
しかし、アマゾンは大量の注文をさばくため薬局側が負担するサービス利用料の収益により、競争に十分打ち勝てるとの判断があったと推定される。
患者側から見れば、未だに医療機関に隣接した薬局で調剤を受けるケースが多く、もしアマゾン参入でいわゆる立地依存型の調剤が大きく変化すれば、従来型の薬局は厳しい競争にさらされることになる。
問題の本質はどこにあるか?
いわゆる「アマゾンエフェクト」なる現象の本質は何であるかと考えてみれば、
- コミュニティに存在する「リアル薬局」の意義
- 対面なしでの診療と服薬指導が患者の選択肢として一般化することの医療への影響
この2つの問題を我々につきつけている現象だ。
国の規制改革会議は、世界から立ち遅れているDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、イノベーションによる医療の質の向上を目指し、活発に提言を発出している。
同会議は、薬局関連に関して、今の薬事規制は昭和30年代に始まったもので、すでに時代遅れになっており、今この改革に着手しなければ古いシステムにより患者が不利益をこうむり続けるリスクが大きく、これを回避しなければならないという主張を展開している。
ファーマシューティカルケアとの符合
思い起こせば、1990年代初頭にものすごい熱量で世界をかけめくったファーマシューティカルケア(PC)という概念の登場は、米国ゼネラルモーターズ(GM)社のメールオーダー薬局活用に危機感を感じて、薬剤師の存在意義を明確に社会に示そうとしたのが端緒だった。アマゾンエフェクトは日本版のメールオーダー薬局の大規模展開と見て取れる。
しかし当時の日本では、PCはクリニカルファーマシーの延長線上にあるものと捉えられ、その本質を正確に認識されることはなかったと感じている。
どうすればいいのだろう
問題の本質のところで指摘したように、①リアル薬局の意義、②対面を介さない医療(調剤)の2つを真剣に考える必要がある。
医療過疎である地方において、リアル薬局が果たしている役割は、大きい。アマゾン宅配が一定程度地方でも普及したにせよ、いつでも、必要な時に薬にアクセスできるリアル薬局の存在が薄れることはないだろう。特にも現実に医薬品を備蓄している強みは、大規模自然災害で医療機関への通院が困難になったり、手持ちの薬が災害で失われた時に発揮される。
また、そこに薬剤師という高等教育を受けた専門家が「いる」という事実はコミュニティに無形の安心感を与えている。
オンライン診療、オンライン調剤にしても同様である。すべてがオンライン上で医療は完結することはない。
リアルな対面でしか達成できないやりとりが消えることはない。
ただ油断してならないことは、経済原理で社会が変化した際に人の意識は大きく変わるということである。模様眺めで済む話ではない。「オンライン」ではなしえない役割を明確に患者、消費者にアピールしていくことが早急に求められている。
ファーマシューティカルケアという概念の再考も必要だ。