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薬局業態を考える【明治薬科大学 菅野敦之】

著者

菅野敦之

明治薬科大学 教授・薬剤師 

薬学教育研究センター 臨床薬学部門/地域医療学

2021年度の予算は106兆6,097億円のうち、23.8兆円が新規国債で賄われます。一方、2020年度末の国と地方の長期債務残高は1,200兆6,703億円(国民一人当たり960万円) の見込みで、COVID-19の影響により税収は見込みより8兆円少ない55兆円に下がり、最悪と言われている債務が更に膨らむのは間違いありません。

社会保障費は最も多く約35.8兆円。2019年度の内訳は年金56.9兆円、介護11.6兆円、医療39.6兆円で、この額をどう抑えるかに焦点が当てられています。これらの60%は保険料で賄われているので、残りの43兆円が国の予算(借金も含む)で充てられていることを考えれば、累積が膨らむ一方であることがわかります。高齢者の人口構成比が大きい状態が2045年まで続くため、医療費の増大は不可避です。

こうした中、財務省の主計官は、医療分野で薬価の毎年引き下げや高齢者負担引上げをしても、薬価引き下げ分は診療報酬財源とは別であることを明言しました。平たく言えば、これ以上借金を増やす訳にはいかないので、金額が嵩む医療費の伸びは今まで以上に抑えるしかないというメッセージですから、これからの薬局は、この前提に立って医療費の低減化に寄与することも考慮しながら将来を考えていかなければなりません。

御存知の通り、調剤技術料については機材の自動化が進むため引上げの可能性は見込まれず、今後の評価は患者さんにとってのメリットに関するフィーと在宅、地域貢献に集約される方向であるため、調剤に特化した業態バランスからシフトする必然性は高まる一方です。すでにこうした方向性については何年も前から厚労省から発信されていましたが、先の改正薬機法において薬局の定義が「薬局は調剤のみならずOTC医薬品を含めたあらゆる医薬品を取り扱う場所であり、服薬指導などの薬学管理を行う場所」が明記されたことも併せると、OTC医薬品の取扱についての考え方も今までとは変わってくることが予想されます。

OTC医薬品は門前立地や、見るからに調剤中心の店構えでは難しいでしょうし、ドラッグストアとの価格競争で勝負にならないという声があるのもわかります。しかし、スイッチ化も含めたOTCの活用で医療費の削減を企図した流れが確実にあることにも着目して欲しいと思います。

政府の規制改革推進会議は昨年7月2日の答申において「一般用医薬品(スイッチOTC等を含む)選択肢の拡大」を盛り込みました。この中では、

  • 2014年に設置された「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」の委員の構成の偏りを、消費者代表を加える等によって是正
  • 承認の全会一致制も廃止し、賛否が分かれた場合は意見を列挙して、薬事・食品衛生審議会に意見として提示する仕組みとする
  • 業界団体のヒアリングも含めた官民連携での目標を設置し、管理する

という内容が示され、もはや厚労省だけでなく政府レベルも含めた検討になっていることを理解しておく必要があります。厚労省では、候補薬となった医薬品の審査結果を下記に公開しています。

候補薬となった医薬品の審査結果

おそらく、今後は市販類似薬の整理も進めざるを得なくなることが予想されます。OTCを駆使した軽医療における役割は、やり方によっては医師不足における医師の負担軽減の一助ともなり得ます。実際に調剤併設薬局で、OTCの範疇を超えた症状の患者に医師への紹介状(緊急性が高い場合には電話)で速やかにバトンタッチして、医師から高い信頼とともに感謝の礼状を多数受けている薬局の先生もいます。

医療費抑制の政策が本格化した際に出遅れることなく、十分な対応が出来る体制を、余力があるうちに整えておくことが肝要です。

本来あるべき薬局に向けて以前より広範な行政担当者が政策決定前に発言しています。COVID-19などの目先の対応に大変な時期ではありますが、情報アンテナを巡らせて、精度の高い判断をしながら前進していきましょう。

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